生活保護の受給者へ介護サービスを行なった際の介護報酬の請求方法と返戻にならないための注意点
何十人もの利用者さんがおられる介護事業所では、少なくとも、そのうちの1人は生活保護を受給されている方がおられるのではないでしょうか?
そうなると当然、介護事業所では、国保連(国民健康保険団体連合会)に対し、生活保護の公費請求が発生します。
そこで今回は、生活保護の公費請求に関して、わかりやすく解説したいと思います。
厚生労働省の報道発表資料では、令和3年6月時点での生活保護の被保護者(受給者)は、高齢者世帯の割合が全体の半分を占めているそうです。
*厚生労働省、被保護者調査(令和3年6月分概数)プレスリリース参照
このことからも、高齢化社会である日本は、今後も高齢者による生活保護受給の割合が増えていくことでしょう。
では、そもそも、生活保護とはどういった制度なのでしょうか?
「生活保護とは?」
生活保護制度は、資産や能力などすべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の度合いに応じて保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を援助する制度です。
生活保護は世帯単位で行います。そのため、下記の条件が世帯全員に当てはまることが必要です。
《 条件 》
・国が定める最低生活費と比較し、収入がその最低生活費に満たない(「生活扶助基準について(令和5年10月現在)参照)
・病気などの理由により、働くことが不可能
・預貯金、生活に使用されていない土地・家屋等の資産を持っていない
・年金や手当などその他の制度を受給しても、生活が困難である
・親族などの扶養義務者からの援助が受けられない
これらの条件をクリアすると、生活保護の申請が可能となります。
《 手続きの流れ 》
1)事前の相談 |
相談窓口は、居住地域を管轄する「福祉事務所」の生活保護担当です。そこでは、生活保護制度の説明、生活福祉資金や各種社会保障施策などの活用について検討します。 |
2)保護の申請 |
1)を検討した結果、各種施策の活用が困難である場合、生活保護の申請を行います。保護決定のために、上記の《 条件 》をクリアしているかの調査が実施されます。 |
3)保護費の支給 |
調査や申請内容を総合的に判断し、保護費の支給が決定されると、以下のことが行われます。 ・厚生労働大臣が定める基準に基づく最低生活費から収入(年金や就労収入など)を差し引いた差額が、保護費として支給される |
《 具体的な保護の種類 》
『 生活扶助 』 → 日常生活に必要な費用(食費・被服費・光熱費など)の支給
『 住宅扶助 』 → 居住(アパートなど)の家賃の支給
『 医療扶助 』 → 医療サービスの費用(医療機関へ直接支払われるため、本人負担なし)
『 介護扶助 』 → 介護サービスの費用(介護事業者へ直接支払われるため、本人負担なし)
このほかにも支給される扶助はありますが、介護事業所の利用者さんがよく使うものは、上記の4種類ではないでしょうか。
生活保護の条件や申請の流れ、扶助の内容を知っておくと、利用者さんやご家族の状況により、適切なアドバイスができると思います。
*生活保護の詳しい内容は、厚生労働省「生活保護制度」参照
「生活保護受給者に行った介護サービスの請求方法と注意点」
上記の『 介護扶助 』でも記載した通り、生活保護受給者の本人負担はなく、介護事業所が国保連へ介護サービス費を直接請求します。
生活保護受給者は、毎月、福祉事務所から介護券が発行されます。
介護事業所は、この介護券を受領することで初めて、介護報酬を国保連へ請求できます。
《 通常の介護給付費明細書との相違点 》
-基本情報- |
介護保険の被保険者番号に加え、公費負担者番号(=介護券発行福祉事務所の所定番号)と、生活保護公費受給者番号(=生活保護の受給者番号)を記入 |
-給付費明細欄- |
介護保険分のサービス回数とサービス単位数の記入に加え、公費分回数と公費対象単位数を記入 |
-請求額集計欄- |
介護保険と生活保護を併用している利用者さんと、生活保護単独の利用者さんとでは、記入方法が異なります。また、場合によっては公費分本人負担が発生することもあります。 1)介護保険と生活保護併用の場合 2)月途中から生活保護が適用された場合 3)生活保護単独の場合 |
-給付率- |
介護保険のみの場合は、給付率が90または80です(場合により70もあり) この給付率の「(介護)保険」と「公費(生活保護)」は、財源が異なります。 このことからも、介護報酬請求を行う際には、公費は別請求として考えなければならないことが、ご理解いただけるのではないでしょうか。 |
上記でもお伝えしましたが、生活保護受給者は、毎月、福祉事務所から介護券が発行されます。
介護券が届いていないにもかかわらず、介護事業所が国保連へ請求を行うと、福祉事務所での突合調査で返戻となります。
もし介護券が届かない場合は、国保連へ介護報酬明細書を提出するまでの間に、担当のケースワーカーに連絡しましょう。
また、介護券はサービス種類ごとに発行されているので、サービス種類が異なる介護券では請求できないため、注意が必要です。
通常の介護給付費明細書との相違点として、各項目欄の記載方法をお伝えしてきましたが、これらは返戻事由として、頻繁に挙げられる内容でもあります。
このような複雑な手間は介護保険請求ソフトを使用すると、介護券に記載されている公費負担者番号と生活保護公費受給者番号の入力で、ほとんどの場合は比較的簡単に国保連への請求が行えるか思います。
ただし、介護券の毎月の確認はもちろん、介護保険と生活保護の併用の方、生活保護単独の方など、利用者さんによって公費の負担割合が異なる場合があるため、注意が必要です。
厚生労働省がシンクタンクに委託した『居宅支援における業務負担等に関する調査研究時事業』によると、居宅支援と介護保険サービス提供事業所との書類のやり取りについて、「手渡し」「郵送」「FAX」が大半の手段として使われていることが分かりました。
この報告書で気になった点は、居宅介護支援事業所でも介護保険サービス事業所でも、ICTを活用していない事業所がまだまだ多いことです。
その理由として挙げられている多くが「導入にコストがかかる」「ICTに関する知識不足」だそうです。
しかし、ICT化し介護システムを導入すると、一度入力してしまえば、そのデータをそのまま利用できるため、情報共有や作業時間の短縮ができます。また、各事業所や病院などとデータの連携もしやすくなります。
大きな視点から見ると、ICT化は、スタッフの労力と時間、情報漏洩のリスク軽減というメリットがあるのです。
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