『認知症の人の気持ちがよくわかる 聞き方・話し方』

 

 今回ご紹介する本は『認知症の人の気持ちがよくわかる 聞き方・話し方』です。
 介護に携わる方にとって、認知症は珍しい障害ではないかもしれません。ですが、私の周りには認知症の方がおられず、テレビなどで見聞きする程度の浅い知識しか持っていませんでした。
『認知症の人の気持ちがよくわかる 聞き方・話し方』は、私のような素人にも認知症のことがわかりやすく書かれています。また、介護に携わる方にとっても、認知症の方との信頼関係を築くヒントが書いてある本だと思いました。

本とラベンダー

・認知症とは神経認知領域の障害であり、苦手なことが増えるということ

 認知症とは六つの神経認知領域(複雑性注意、実行機能、学習と記憶、言語、知覚―運動、社会的認知)のひとつ以上が障害され、日常生活や対人関係に支障をきたしている状態だそうです。

『認知症の人の気持ちがよくわかる 聞き方・話し方』には、六つの神経認知領域の障害によって起こる「中核症状」の説明と、どうサポートすればよいかが具体的に書かれています。

 例えば、複雑性注意障害は、選択肢が多いと混乱してしまうそうです。その場合は、選択肢を少なくして「どちらが良いですか?」と選んでもらうようにします。

・BPSD(認知症の行動と心理症状)は、病気ではなくストレスが原因

 介護をされる方が苦慮することが多い認知症の方の行動や行為(暴言や暴力、昼夜逆転、徘徊など症状)は、BPSD(認知症の行動と心理症状)といわれます。
『認知症の人の気持ちがよくわかる 聞き方・話し方』によると、BPSDは、環境の変化や身体の不調、ケア不足によるストレスから生じるものである、と書かれています。

 裏を返せば、認知症の方がどういったことでストレスを感じるのかを知れば、BPSDは起こりにくいということです。

寄り添う花

・認知症だから……ではなく、相手の気持ちを探り、受け止め、寄り添う

『認知症の人の気持ちがよくわかる 聞き方・話し方』に一つの事例が書かれています。

 その方は、風呂の脱衣所で服を脱ぐ際、毎回暴れて抵抗するそうです。ある日、介護士が「あなたの服の中に虫が入っている!」とうそをつき、その方の服を脱がせることに成功したそうです。

 私はこれを読んだとき、予防接種で病院を受診した際に出会った親子のことを思い出しました。

 その親子は、お母さまが注射の事実を伏せてお子さまと来院。注射を打つと分かった途端、お子さまは「お母さんのうそつき!」と泣き叫びます。その叫びは、親子が病院を後にするまで続きました。

 このとき、子どもは『痛い・怖い』という気持ちに加え、『うそをつかれた・裏切られた』という気持ちにもなります。そして次からは、素直に病院へ行ってはくれなくなるでしょう。

『認知症の人の気持ちがよくわかる 聞き方・話し方』にも書かれていましたが、ごまかされたり、うそをつかれたりすると、本人の中に『不信感』が残るそうです。
 これは、認知症の方に限らず、幼い子どもであっても同じだと思います。

 ではどうすればよいのか?
 答えは簡単。ごまかしやうそをやめるだけです(その人のために『伝えない事実』はあるかもしれませんが)
 信頼関係を崩すような言動をされたら、私だってその人を信用しません。
 そして、信頼関係を築くのに最も大切なことは『相手の気持ちを探り、受け止め、寄り添う』だと、私は思います。

 育児において、この『寄り添う』ことが、日々の忙しさでおろそかになりがちです。
『認知症の人の気持ちがよくわかる 聞き方・話し方』を読むと、介護もおそらく同じではないかと感じました。

『認知症の人の気持ちがよくわかる 聞き方・話し方』は介護に関する本ですが、育児に通じるものがあるように思います。 
 親である私も、自分の言動はどうだったかな?と振り返るよい機会となりました。